冬の案山子
                             2021

 たいくつでひまな時間

ベランダに
干した
パンツが
乾いているのか
濡れているのか

ベランダに
ぶら下がった
たいくつで
ひまな時間に
まかせ

西日を浴び
白いパンツが
赤い色に
染まってきた

105
 大人になるということ




知らないことを
知らないと

分からないことを
わからないと

言えなくなるのが
大人です

大人になることは
いろんな
嘘つき面を持つことです。

104
 なみだ橋

おとうとが
恋人に捨てられたと
口惜しがり
思いきり蹴とばし
泣いたという
なみだ橋に行った

欄干から見下ろす
川面には下弦の月が
揺れながら浮かんでいた
無念の月のように見えた

おとうとのように
なみだ橋の欄干を
わたしも思いきり蹴ってみた

あまりの足の痛さに
わたしまで悲しくなり
泣けそうになった

悲しみが憎しみになり
わたしの失恋まで思い出し
下弦の月に重なった

103
 かぜのよぎり

いろんなことを
かんだり
くだいたり
ふれたり
さわったり
きいたり
ききのがしたり
かいでみたり
はなをそむけたり
すくったり
ほおりなげたり
だきしめたり
だきしめられたり

すうーっとおともたてず
まいにちがすすみ

きょうというひを
ひとつひとつつみあげ
しぬというのは
なかなかつらいものです

あっ あしたの
かぜがほほをよぎった

102
 朱里のサイン



朱里のサインは
いつもVにきまってる
すくすく育つことは
明日をあそぶこと
すくすくくすくすすくすく

白いふわふわ雲より
まあるいお月さまより
キラキラお星さまより
お日さまよりたかい
たかいーVサイン
レッツゴーだよ!

101
 忘れる
忘れようとしたことさえ
忘れようと湖岸に立つ
打ち寄せるさざ波に訴える

なんでもないこと
なんでもないこと
さざ波はただ繰り返すだけ

なんでもないことでないから
波に運んでもらおうと
息急きってきたのに

なんでもないことの反復に
忘れようとしたことさえ
思いだしてしまい悲しくなった

100
ある、問いかけ 
いつもの朝のように目覚め
トイレにゆき歯を磨き顔を洗い
新聞を広げ文字を追いだしたら
昨晩 妻との諍いのことは
すっかり忘れている

昨日の出来事を活字でたぐり
頷いたり怒ったり笑ったりしながら
思い出そうとしているのに
昨晩 諍いがあった時間は
ものの見事なぐらいに消えている
夕べ布団に入り眠りにつき
今朝起きだしてくるまでの時間は
本当にあったのだろうかー

宇宙誕生のはるか以前から
時間は繋がっているはずだ
昨晩あった妻との諍いにしても
引き継がれ繋がっているはずだ
その時間が記憶のなかから
すっぽりと抜け落ちているのだ

頭の中にクモの巣がはっている
混迷した時間の謎から逃げようと
新聞を閉じ庭に出て空を見上げる
青く澄み切った秋空が広がっている

空は時間が進むということを
意識することもなく青いだけ
その言葉をひとつ紡ぐだけでも
時間は刻々と過ぎていく

過去に戻ろうとしない時間を
ふり返り読みこんで試みるほど
今の時間の立ち位置がわからなくなる
ひとつだけわかっているのは
宇宙の時間は未来永劫で
人の生はほんの瞬きということだけー 

99
 真っ青な空

もしも
大きな黒い雲が
たくさんの山に囲まれ
寒いところに住んでいる
おばあちゃんと
だあちゃんの
お家に広がったら

あかりは
大きなくしゃみをして
きれいに吹きとばし
あかりの
真っ青な空を
わけてやるんだ

98
 わかってくれるだろう! 

五円だま五枚そろえ
一枚ずつ丁寧に磨き
百円ショップで一番豪華な
ご祝儀袋と折り紙を買い
エロっぽくと ピンク色を選び
ピカピカ五円だま五枚をならべ
セロテープでしっかり押さえ
きちんと四つ折りにたたんで
ご祝儀袋に丁寧に入れた

ご祝儀袋裏面の記入欄に
住所氏名メール携帯電話
ぼくなりにしっかりと認めた
そしたら もう一つのカコミ
憤怒の河をぐんとせき止め
抵抗の証とペンを置き空白のまま

ぼくはノリの効いたワイシャツに
桃色吐息の派手なネクタイをしめ
くたびれた黒の革靴を泣き叫ぶまで磨き
招待状とご祝儀袋をしっかりと
一張羅の背広のポケットに入れ
幼なじみの結婚パーティーへ 

わかってくれるだろう!
黄金の五円だま五枚で
たったの二十五円だけど
二人の目出度い縁担ぎだよ

冗談ではないのだ!
新型コロナ禍の影響で感染はせずとも
信頼していた派遣先から雇い止めを食らい
夏の入道雲のようにぐんぐんスッカラカン

よしぼう
さっちん
幼なじみだもの
わかってくれるだろう!

97
 二本の赤い線  


義父は弟を太平洋戦争で亡くした
遺骨を受け取りに 
紋付き袴の正装で父と寺へ出かけた
案内された本堂の片隅に
白木の箱が乱雑に積まれていた

住職はそっけなく「ほらー」
戦死者を敬う精神は皆無だった
それからニッポンを信じられなくなった

義父は生きすぎたと言って九八歳で死んだ
残されたのは古びたかび臭い黒い手帳
手帳には住所録と名刺ほどの大きさで
「憲法」の薄い冊子がはさまれている

パラパラと「憲法」をめくってみる
戦争の放棄 戦力の不保持 交戦権の放棄
そこには赤線が二本ひかれ滲んでいる

義父はいつも黒い手帳に憲法をはさみ
信じられなくなったという
ニッポン国家を信じようとしていた
憲法に認められた約束事は
必ず守られるはずだと決めこんでいた

一本は霞んでいるが二本目は最近のようだ
義父は最後の力をふりしぼり
ふるえながら再び赤線を引いたのか
赤色が鮮やかでゆれ波打っている

昭和の時代にはさまれた戦争をくぐり
抗うことのできなかった無念を
二本の赤い線を引いて遺言としたのかー

96
 草笛が聴こえる 

よそさまに知られぬよう
こころに刺さったとげを
抜いてくれないものかと
祈るような思いで
鎮魂の森にはいった

いのちはて散りだした葉っぱは
けもの道をじゃれるようにざわつき
こころに刺さったとげをくすぐる

いのちという言葉には
近代医学の粋を集めても
治癒できないこころの重みもある
もろさ やわらかさ あたたかさ
なつかしさ かなしさ―が
螺旋状につながっているのだ

ふと どこからともなく
草笛が聴こえてくる
消えいりそうな葉ずれの音に交じり
草笛の音色が樹木を縫い聴こえてくる
こころのとげを癒してくれているのか
これは老いの幻聴だろうかー

言い伝えを思い出す
二股に分かれる場所に出ると
イチョウの老大木があり
洞には女神が奉られている

探し出した女神は
落葉にくるまれるように
鎮座し微笑んでいる
草笛は吹いていない          

95
 メル友 

「こらぁー!朝だ 起きろ!」
一枚の朝陽の写真を添付して
寝坊助の孫娘にSMSで送る

算数を九九表で覚え
そろばんでガチャガチャ遊びをし
鼻たれ小僧だった団塊の世代には
疲れも知らず進化するスマホ操作は
荷が重すぎるというものだ

同じ人間が開発したものだと
老眼鏡をずりおろし
細かい文字を追い指で触れると
文字のオンパレード
ドギマギハラハラの連続
    
どうも ご破算で願いましてはー
あの時代に戻っていくようだ
なんとか ひとつの文章にして 
孫娘とキャッチボールできようになった

素早い返事が来る
言葉は少なく絵文字が数珠つなぎ
これは暗号だと悲鳴をあげる
錆びついた頭をフル回転させ
考える 考える 考える     

ジイよ それが痴呆防止なのだ
そうやって生きるのだ
生きていることさえも忘れ生きろ!       
そんなメッセージにも聞こえる

また夜更かししたのか
いらぬ心配までしてしまう 

94
 玉こんにゃく 

つかれた心に玉こんの匂いを嗅ぐ
つかれた心に松前漬けを舌にのせる
つかれた心に米沢牛を入れ歯で噛む

墓じまいの相談で
生まれ故郷の山形を訪れ
地元味がしみ込んだ特産品を
どこかの土産店で買い求め
兄が宅急便で送ってくれた

一つひとつの食べ物は
切ってもきれない懐かしい味
顔も忘れた幼なじみを連れ
忙しく体中を駆けめぐる

二人とも茨城に住むようになり
帰郷は数年に一度の墓参りだけ
その墓石も撤去され更地となり
菩提寺に返すことになるのかー

ああ 生まれ故郷の思い出は
漂白剤できれいさっぱり洗い流され
どんどん消されてゆくようだ

ふたたび箸をとり
玉こんに醤油とスルメイカ
そして オフクロの汗で味付けした
まんまるくつるりんとした
玉こんを口の中で転がしてみる

93
 おしえてあげる

かりは
ひとりなのに
なんで なんで
さんにんもいるの?
おかしなこと
ふしぎなこと

だから あかりは
たくさんのことを
しっかり
おべんきょうして
みんなに
おしえてやるんだよ

ここは
ああで
こうで
だから
そうなるんだよって !

92
 光りの向こうに

光りの向こうには
何があるの?
パパにきいても
ママにきいても
だぁちゃんにきいても
おばあちゃんにきいても
わからない?ーだけ

みんなには
わからないけど
きっと光の向こうには
もっと楽しく
うれしいことが
たくさんあるはずー
朱里は信じているんだよ!

91
 わがまま

夜 
布団に
入り
そのまま
翌朝
目を
覚まさず
永遠の
眠りに
はいれば
いいと
思う時が
ある
ああ
なんて
いう
わがまま
だろう

90
 朱里は4才

お日さまキラキラ
お星さまキラキラ
2017年10月16日
朱里はオギャー

笑って泣いて
転んで起きて
ぐずって跳ねて
今日は4才の誕生日

朱里の回転木馬は
未来に向かって
まわりつづけ
キラキラ輝くんだよ

89
 白い時間

いしきすることなく呼吸を繰り返し
いしきすることなく青空が瞳に映り
いしきすることなく季節ごと花の香りが漂い
いしきすることなく小鳥のさえずりが天を震わせ

いしきすることなく空は深く暗く沈み
いしきすることなく哀しみを思い出し大粒の涙
いしきすることなく白い時は音もなく過ぎゆき


いしきすることなく米粒のふんわかに匂い
いしきすることなく二本の箸で口に運び
いしきすることなくおやすみと交わし
いしきすることなく常夜灯になり
いしきすることなく夢の世界に入り
いしきすることなく明日を迎える
いしきすることなく箸置きのような人生でしたが
いしきすることなく72歳の誕生日を祝いに
いしきすることなく黒御影の白い文字が浮かぶ

88
 秋風に

土手をはしり
花壇の花々をくすぐり
みどりのカーテンの
ゴーヤの葉っぱを抜け
大きく開いた窓から
音もたてずに
吹いてくる秋風は
今年もやってきた
風さんありがとう
お礼はできないけど
ありがとうと認め
爽やかな秋風にのせ
紙飛行機で伝えたいよ

87
 あやうい祈り


喪った親しい人の数を指折る
そろりそろり ゆらゆら ふわふわ クラゲのように
ぼんやり 思い浮かぶ 顔 顔 顔 顔ー。
それも 年ごとに 輪郭はうすれ
いつのまにか すうーっと消える

すうーっと消える人への悲しみより
近づきつつ 歳となる 不安と恍惚
救いを求めるように
天に向けそうーっと 黙し手を合わせる

天上界は限りなく広く青い
青色は群青色となり
青の濃さをどんどん増していく
藍群青からは黒ずみだし
いつの間にかすっかり暗闇に覆われ
祈りのことばさえ漆黒の世界に吸い込まれる

生はまばたきの連続
死は一瞬のまばたき

祈りという名のあやうい幻に惑わされ
祈れば祈るほど 黒い空がぐんぐん迫り
容赦なく引き込まれ 
すーっと消える人になるようだ

86
  解放された窓

2021年9月27日付朝日新聞1面
「緊急事態宣言 全面解除へ調整」
30日期限 重点措置経ずにー
黒ゴジックと明朝の見出しが飛び込む

閉めっぱなしだった
家中の窓という窓を次々と開け
まったく新しい風入れるような
爽やさが全身を走り小躍りする

この解放されたうれしさを
だれかに思いのたけ伝えたい
そうだ 霞ヶ浦へ行き叫ぼうー

ああ、あなたに知らせたいのだ
世界中の人びとがパニックに陥り
不安の中で過ごしてきた
閉ざされた時間から解放され
いつもの日常生活に戻れるのだ

勇んでやってきた霞ヶ浦は
湖面も空も薄墨色に覆われ
この歓びを報告するには
とても寂しげな風景だった

それでも叫ぼうとした時だ
暗雲垂れこめる空の一角から
薄日がこぼれてくるではないかー

曇天の空はどんどん明るくなり
雲間から青空がチラチラ除き
白い光がこぼれてくるではないか

霞ヶ浦の湖面はゆっくり明るさ増し
さざ波が眩しく輝きだした
ああ この2年という時間は
なんであったのだろうかー

ひとよ奢るなかれ
まさかの神の声が聞こえそうだー
ヒトは地球でしか生きられないのだー
こんな明解な答えを導くためにかー

湖から吹き寄せる風は
なにごともなかったように
爽やかに頬をなで何処へ去る

85
 あなたへ

仏縁を感じるという
あなたは微笑み
ぼくのカメラにおさまった

あなたのうしろには
北浦の静かな湖面が広がり
空は限りなく青く澄んだ
明るい初秋の朝だった

仏の文字を指でなぞり
イとムにわけてみる

とおいとおいむかし
イとムは離れて暮らしていた
いつとはなしに出会い
仲よしになると結ばれ
仏の文字が生まれた
縁結びを祝い
仏縁のことばができた

そんな
たわいない冗談をいったら
あなたは
また静かに微笑んだ

84
 朱里の秋

朱里は
ママとバァバと
志賀高原の琵琶池で
お化粧を始めた
秋をしっかり抱きしめる

さざ波たつ水面に揺られても
お化粧ずれしない
しっかり屋さんの秋

朱里も
琵琶池のお化粧に負けない
こぼれそうな笑顔をふりまき
胸いっぱいの歓びを弾かせる

83
 地球儀を回す

地球儀を回しながら
小さなニッポンを起点に
同じ緯度を左からなぞる
北朝鮮、韓国、トルコ、スペイン
イタリア、ギリシャ
そしてアメリカ合衆国となり
広い太平洋を越え日本に戻る

同じ緯度に位置する国々の
時間の遠近方も思考方も
みんな違っていいはずだ
どの国の人びとも同じ地球人という
まぎれもない真実が存在するだけ

地球は優しくて優しすぎる
どんなに傷つけれても
寛容という言葉を全身に受け止め
生きとし生ける者たちに命を与えてくれた

忍耐は永遠に続くわけがない
苦渋の声を上げ反抗の行動を始めた
もういい加減にしろとのろしを上げたのだ

地球儀を回し回してなだめても
自らの言葉を発することができず
天地異変による行動に出る(大地鳴動)めいどう
世界中の人びとが嘆き悲しみの波に飲まれる

遅すぎたことはない
科学的な進歩は敗北の道を走るだけ
遅すぎることも遅すぎたこともない
地球はそう囁きながら休みなく回る

82
 君の笑顔が消える

風になびくつややかな黒髪
キラキラ輝くつぶらな瞳
くっきり浮き出た笑窪
やわらかいくちびる
きれいにならんだ白い歯

一瞬、たじろぐほど
君は優しく微笑んでいた
その笑顔が色あせ消えていく

「その火事を防ぐあなたに金メダル」
大きな標語と寄り添い
この一年は休みもとらず
笑顔をふりまいたてきた

火事が起きれば
すべてを奪われ
イノチまで失われる

金メダル合戦は終わったけど
イノチを失わないようにと訴え
永遠という笑顔もなければ
永遠という絶望もないはず
そう語りかけ
君は消えようとしている

81
 特急ひたち

走ってくるというより
現われる だった
特急ひたちの勇壮な姿は
ゆっくりと大きくなり
どんどん迫ってくる

繭玉を連結した車内に
希望、悲しみ、喜び、不安を
ひとくくりにして乗せ
列車は走ってくる

土手の草むらをなびかせ
跨線橋をくぐり抜けると
轟音を残して
あっというまに
約束の地に消えた

80
 蚊取り線香

街にはたくさんの嘘が飛び交い
溜め息 嘆き 慄きが流布していると聞き
老人は蚊取り線香を持って
おぼつかぬ足をよろめかさながら
薄暗い夜道をとぼとぼと出かけた

蚊取り線香は渦巻き状の先端から
赤い炎を放ち青白い煙をくゆらせ
よろめくように歩く老人にしがみついていた

蚊取り線香は街に出かける理由もわからず
皺の数とひなびた指先につまれるまま
風まかせにゆらゆ細い煙を闇にまぎれこんでいた

ようやく街にたどり着いた老人は
たくさんの嘘はどこに隠れているのか
街灯に明るく照らし出されたあたり見渡した

嘘の人影もなくざわつきもなく
街は息を潜め嘘が通り過ぎるのを待ち
どこかに身を潜めて神仏にでも祈っているのか
水中に沈んだ街のように静かにあるだけだった

ただ 遊技場の回転木馬はまわり続け
音もたてず疲れを知らない子どものように
誰も乗っていないのに
首を上下にふりながらまわっていた

蚊取り線香はそれを見届けると火は消えた

79
 拍手を贈りたい

あきらめていい
人生なんてあるだろうか
あきらめなくていい
人生なんてあるのだろうか

くちゃくちゃ勝利を表現宣言し
くちゃくちゃ敗北を無念がり

くちゃくちゃのはざまで
オリンピックという舞台で
生を謳歌している
あなたたちに拍手を贈りたい

風は平等に頬をなで
小鳥はだれかれ選ばずさえずり
野に咲く花は
季節をきちんと読み
花びらを合奏を愛でる

あなたは全身で受けとめ
喜びを訴えようとする
その頑張りに
私は拍手を贈りたい
ありがとうーと。

78
 耳たぶ

わたしの耳たぶが
もっと大きかったら
あなたの悲しみを
もっと素直に
抱きしめられたでしょう

コオロギ
闇夜に鳴き
風そよぎ
真白き夕顔
大きな花びら
星たちに
手をふり笑う

わたしの耳たぶが
もっと大きかったら
と いつも思う

77
 今宵は満月なり

満月は流れる雲に隠れては
満天の星くずを従え
黄金の輝きを誇らしげに披瀝する
わたしは返す言葉もなく微笑むだけ

満月は怒らない
満月は悲しまない
満月は嘆かない
満月は記憶を糸を引き寄せる

上半身を隠し尻まる出しで
息を殺し耳をそばだて
あの時の真剣な戦いの時間は
大人になるための準備運動だった

嘘をついても騙してもいいから
絶対に見つからないことが
かくれんぼの約束ごとだった
それは子どもだったから許されたのか

大人になって知った
嘘はいけないこと
人はひとを限りなく愛し信じること
たとえ許されざる者であっても

満月は何も語らず夜空に浮かび
朝になると白くなり
いつのまにか
青空の中に吸い込まれ
もっと大きな光を放つ
眩しすぎるほどの光を放つ
宇宙の支配者が顔を見せる
もう、子どもには戻れないよー

76
 蚊取り線香

嘘は街中に急速に広まり
飛び交っていたので
老人は蚊取り線香を持ち
真夜中だというのに
おぼつかぬ足どりで街へ出かけた

渦巻き状の蚊取り線香は
昔馴染みのうす紫色と
鼻孔をくすぐる臭いを放ち
風まかせにくゆらせていた

どんどん輪を小さくする蚊取り線香は
なぜ街に出かけることになったのか
理由も分からず問う事もなかった

コロナマルという特急に乗った
生に満ち溢れた大勢の若者たちが
さびれたまちに久しぶりにやってくると
嘘とデマをジューサーにかけ
しわくちゃ顔の誰かが発信したらしい

噂と嘘がごじゃまぜになり
腰をかがめた老人たちは
蚊取り線香を手にウロウロしている
コロナを恐れての蚊取り線香か
老人たちは自らに胸をあてることもない

老人たちは世界が終わりになり
地球が滅亡してもいいと
長いあいだ胸にしまいこんでいた
どうせ それほど長くはないイノチ

ただ 久しく見ていない若者たちを
ひとめ拝み匂いを嗅いで
置き土産を手にあの世にいきたいと
街に繰り出しただけなのだ

75
老人よ鍬を持て

老人よ
許すかぎりの力をこめ
鍬をふりかざし
土塊に振り落とせ

そして土に訊け
おまえのいのちは
どこからやって来て
どこへ消えるのだーと

たんこぶづくりを
自慢し合ったことが
嘘だったように
衰えた体は
涙を流し
泣き叫んでも
悔やむことも
恐れることもない

失われた肉体が
再び戻らないのは
衰えるまで
生きた証だから
老人よ鍬を持て

そして死ぬまで
生きろ
生きてみろ

74
 時間というもの


遠い時間と近い時間
その真ん中にあるのは
詩を書いている今
時間は休むことを知らない
ひと文字書くごとにしっかりと時を刻む

過ぎし日に思いをはせる
小学校の運動会での駆けっこ
ぼくよりちびっ子が目の前を走る
走って走っても追いつけない
苛立つのでうしろから
ポカリと頭を殴ってやりたい
口惜しさは果たせずゴールイン

頭ポカリの無念から
六十年も経っているというのに
しっかり記憶の襞に刻みこまれ
どれもが修復できない時間だというのに
ほじくりだして詩を書いている
おろかで破廉恥な行為だろうかー

サイコロを振り直してみる
武者人形のような勇ましさはなく
どこか幽遠の地に足を踏み入れたような
真っ白な彼岸花が咲き乱れる
墓地に迷いこんだような
不可解なぼんやりとしている

遠い時間も近い時間もいまの生が起点
残された時間は少ないと気負いも失せ
欠伸さえ忘れてしまうほど
ひねもすぼんやり過ごす日々が多くなった

73
  あなたがいちばんきれいになったとき

ほんとうに
あなたが美しくきれいだったのは
あなたは死んだときでした

幼子のわたしたち二姉妹を残し
男の子が欲しいといっていた
あなたの夫はあっけなく事故死

嫁入り道具から
一切合切を売りつくし
さあ、最後の売りものは
私の頑健な体と気丈さだけよ

男衆に交じり朝から晩まで
日雇労働から針仕事まで働きどおし
肢体に注がれる卑猥な眼差し
耳もとに囁かれる甘い誘いに
揺れる女心にくさびを打っていた

一度だけやってきた授業参観日
あなたは野良着のまま教室に現れ
真っ黒い顔に白い歯を輝かせ
無骨な両手を大きくふり
こぼれんばかりの笑顔
まわりのお母さんたちとなじまず
わたしはとても恥ずかしかった

わたしたちは一度も
あなたのおしろいの匂いを
かぐこともばく育った

あなたの夫の顔がどんどん遠ざかると
わたしたちは嫁ぎ母となり
あなたの夫が欲しかった
男の子をふたりとも授かった

いま あなたは
おしろいを塗り紅までつけて
見違えるように美しく微笑んでいる

あなたの死に顔を見た孫は
おばあちゃんお化粧している
そういってはしゃいでいるんだよ

72
 尋ね人がわからない

お盆を迎える夏の暑い昼下がり
その老人が墓地の中を
歩きまわるのを見るようになったのは
いつの年のころからだろうかー

夏帽子を被り白いワイシャツ
杖をついているが足どりはしっかりと
身なりは紳士風で毅然としている

老人は墓所の間の細い道に歩を進め
一つひとつの墓誌を読む
そして指を折って数えている
何を目的として何の理由でだろう

一度 不思議に思い聞いたことがある
「檀家の方ですか?」
「どなたのお墓を探しているのですか?」
老人はひとこと
「尋ね人がわからないのです」

熱中症警戒アラートが発令され
まん延防止措置が県内全域にとられ
ひなびた呼吸を強いられているというのに
姿勢を正し礼儀よく墓誌巡りをしている

墓地に建ち並ぶ御影石には容赦なく
太陽の熱がつぶてとなって突き射さり
反射熱は墓地全体に降りそそぎ
尋常な暑さではないはずだ

気がふれているのだろうかー
痴呆で徘徊しているのだろうかー
もしものことが起こらなければー

一巡すると本堂の反対側にある
樹齢千二百年のイチョウの木の下に立つと
耳を押し当て黙想すると
西方浄土に向きを変え直立不動
脱帽して深々といち礼をして立ち去る

わからない尋ね人は
老人自身かもしれない
もうすべてを知り尽くし
墓誌巡礼をすることを
生きる糧にしているかもしれない

71
 橋のたもとで

あの吊り橋はなんていうだっけ
ちとせの橋ではなかった
逢瀬の橋でもなかった
そんことはどうでもいいような
名前だったような気がする

橋はぶらんぶらん
雨上がりの雫の重さを抱きしめ
わたしの切ない心模様のように揺れている

待つという期待とときめき
待ち続けるという時間の悪戯
吊り橋はなんにもわかっていない

あなたは約束の時間にやって来なかった
あなたはとうとう最後までやって来なかった

夏の暑い午後でつんざくようなセミの大合唱
蒼空はぐんぐんと雲を抱きしめている
熱く燃えるまっさらなハートに
あくまでも明るいみどりが織りなし戯れている

突然 幹線道路を赤色ランプを激しく回し
山間の渓谷に棲む生きている動物さえ怯えるような
村はずれの吊り橋の風景には
とてもなじまないサイレンが響く

待ってみよう待つことは自由だ
待つということで生まれる熱い抱擁
遠くにあっても近くにあっても
あなたとわたしには無限の橋が架かっている

金属音を残して山間に消えたのは
あれはあなたの交通事故を知らせるものだった

あれからの20年という歳月は瞬きのようでもあった
今日思い出したように吊り橋のやもとに立つ
わたしはあなたを抱きしめることはできなかった

70
 壊れる

ひとはひとを
まる裸で信じるもの
あなたはそれを守った

たったそれだけなのに
大切なものは
壊れ失われてしまった

壊れたら
作りなおすことが
できるけど
ただ あなたの心まで
壊れてほしくない

二人の愛を
この小さな家に
そうっと築こう
そう励ましあって
買った建売住宅だけど
さっさと手放し
さっぱりしよう

若草色の草原で
青空とあなたを抱きしめ
生の歓びに満ちあふれ
壊れるという言葉が
辞書から
消えていた時のように

69
 けんこう坂にある空き家 


高齢になったというのに
坂道の多いまちに越すはめになった
家の玄関を出るとすぐ急な下り坂
けんこう坂と名づけ励ますがきつい

十メートルほど下ると
踊り場のように平坦な道となる
閑静な住宅街といううたい文句だった
建売住宅が坂道をはさんで建ち並ぶ

不意に招かざる客のように目に入る
頑丈そうな入母屋造りの一軒の空き家
門扉は鍵がかけられ雨戸は閉まりっぱなし    
広い庭はわがもの顔で雑草が伸び放題
外壁には蔦が執拗ほどもつれ絡んでいる

バブルで踊り弾けたという噂だ
だれだって明るい未来を信じ
生きていたはずではなかったかー 
 
それにしても不釣り合いだ
寸分違わないような意匠で
お行儀よくひなだんに建ち並んでいる
けんこう坂の風景には似合わない
似合うということは
なにげなく風景に溶け込むこと    

呼称を変えるべきかー
無念坂 怨み坂 黄昏坂 敗残坂
愛称を変えたところで
真実は歴然と存在しているのだろうがー             

68
 朱里もまっしぐら

青い空は
どこまでも
遠くにあって

食べきれない
綿菓子のような
白い雲は
まっしぐら

そよ風ふき
寄せる波音
夏は秋を信じ
まっしぐら

朱里も
明日に向かって
まっしぐら 

67
 チクタク時計  

チクタク チクタク チクタク
チクタク チクタク チクタク

ぼんやり庭を眺めていても
チクタク時計はときを刻み
チクタク チクタク チクタク

くらげのように過ごした昨日も
チクタク時計は懸命に針を進めていた
その心地よいリズムの記憶は消えている

チクタク チクタク チクタク
チクタク チクタク チクタク

ずうーっとむかしむかし
オギャーと生まれると産着にくるまれ
地球人としてチョコチョコ

チクタク チクタク チクタク
チクタク チクタク チクタク

二足歩行の類人猿として歩みはじめ
運よくという大きな傘に守られ
何となく今日まで生きながらえた

チクタク チクタク チクタク
チクタク チクタク チクタク

高齢者の捺印をしっかりおされると
転げ落ちるように気力と体力は衰え
このまま目をさまさなくてもと布団へ

チクタク チクタク チクタク
チクタク チクタク チクタク

生まれかわることができたら
宇宙をもさえまるのみしてしまう
チクタク時計になりたい 

66 詩人会議7月応募
 あなたの声はいつまでも

ひとは生きものなんだよねー
あなたはそういって死んでしまったね

筑波山の山頂に起ち
二人して澄んだ空気を腹いっぱい吸い
大きな伸びをして空を見上げ
深呼吸をした時のように
それこそまったくあっけなくー。

ずうっと遠くにある夜空では花火大会
ずうっと近くであなたは瞼を閉じ永遠の眠り
あなたの両手をしっかり握り締め
あなたに永遠の別れを告げる

ひとは生きものなんだよねー
あなたの声が耳朶にこびりついて離れない
ひとの一生なんてあっけないものね

夜空を彩る花火大会の日に (ハレの日の花火大会にー)
悲しみにくれ (くれなければならない)
涙を流す(途方にくれる)わたしの運命を呪う

慰安室から聴こえる大きな爆音
あなたの冷たい手の感触を頬寄せ
おもわずわたしは外に駆けだす

どんどんあがる 大輪の花 流れる光の川
輝いては瞬時に消える覚悟のよさ
あなたも見てください
そして そして そして
しっかりともっと遠くにいって
しっかりともっと近くにいてよー。

65
 午後の5時に

わたしは
あなたを見ていました
あなたも
わたしを見ていました

それは晴れた夏の午後
明日への幕明けに向かい
今日を閉じようとする
きっかりの
まだ明るい午後の5時

遠くから梵鐘の音が
腹底を探るようになり響き
公民館の防犯塔から
スピーカーが大きな口をあけ
記憶に刻印された童謡を流し
今日という日の緞帳を
いさぎよくおろす準備をうながす

そんな気怠い午後の5時
わたしとあなたは見合って
嘲笑するような笑みを浮かべ
耳を澄まし誰も聴いていない
午後の5時を確かめあっていた

明日も午後の5時に会えることを願いー

64
 七夕の夜

どしゃぶりの七夕の夜
あなたはわたしを抱いた
わたしはあなたを抱いた

あなたは夫を喪い
わたしは妻を失い

ひさしぶりの肉の火照りに
ふたりは重なり力強く抱きしめあった

あなたは三人の孫と
わたしは一人の子どももなく
天蓋孤独なやもめ暮らし

どのような縁で
二人は結びついたのかわからぬまま
これは今宵七夕の巡りあわせ

ふたりは
あったかいあったかいと
息を弾ませ火照る体を求めた

窓には風なぐりの雨が叩きつけ
残り少なくなった
生への終着点を盛んに知らせている

もはや列車のカチャンと力強く
連結されることもなく

息をはずませながら
ふたりの体が離れた時

鋭い雷音が夜空を駆け抜け
二人の体に稲妻が走り
刹那を一瞬にしての封じ込めた

63
 あなたのルーツは

謎めいたような美しさを
惜しげもなく披瀝して
満開の花びらを揺らし
六月の雨に打たれている

整備された蓮池は
行政区のようにきっちり仕切られ
与えられた升席に行儀よく座り
名札は美辞麗句のオンパレード

あでやかな美しさにひかれ
しばしの癒しを求め人びとは訪れる
スマホでツーショットに
Ⅴサインよろしくと揺れ
きれいだねと歓声に
こころ弾ませたりする

すべてが充たされた生活
あなたは幸せの絶頂期にあり
生まれ出づることに感謝をする

ところが
それは仕組まれた罠があった
遺伝子の組み換えが行われていた
わたしもみとれるほどの美しさは
闇につつまれルーツはたどれない

逃れる術を知らない蓮花たちは
これを運命として受け入れ
黙したまま雨に打たれている

62
 やじろべい

わたしのこころはやじろべい
バランスを保ちながら踏みとどまり
懸命に今日を生きようとしている

おざなりでない毎日を送りたいものだ
ところが想定外ということは
前触れもなく忽然と現れ大手をふる

波風たたず 凪のようなー
それは海市のようにあるはずもなく
寄せる期待はぼんやりと霧にかすみ消える

そのためにこれまでに
いくつの嘘と裏切りをまき散らし
多くのものを失い悔やみ涙したのだろう

凸凹のない日常なんて
世界中みわたしたってあるはずもなく
顔も知らない多くのひとがどん底でもがいている

こころの中ににもやじろべいは宿り
孤独を全身で受け止め一本足で必死に支えているが
照れやで寂しがりやでお喋り好きかもしれない

眩しすぎるカーテン越しの朝陽
あまりにも孤高すぎる満月
美しすぎる満天の星くずたちの歓喜の舞い

やじろべいはふらつく地球を支えようと踏ん張る
やじろべいはうろたえる人びとに祈りを捧げる
やじろべいは生きとし生ける者への幸多きことを願う

それらすべてが風の徒労の使者であっても
それは天文学的数字であったとして
今日もゆうらんゆうらんと揺れゆられている

61
 バンザイの日

今日の日は
戻らないけど
明日はある
今日の
この時間

ものがたりは
静かに
進み

ゆうら
ゆうゆら
水面を
ただよい

音もたてず
沈み
沈んで
水底に
たどり着き

さようならも
いわず
静かに消える

短くも
はかなくも
だれかとだれかの
やりとりはあった

ああ 今日の日よ
バンザイだ

60
 なんでもないこと

どこまでも
静かなる
明るい
空の下で

あなたは
パンティーを
脱がされた
のではない

自ら脱いで
明るい性の
歓喜を
声高らかに
歌いたかったからだ

なんでもないんだよ
なんでもないことを

おてんとうさまに
見せるんだよ!!

59
 永遠のチクタク時計


チクタク チクタク チクタク
チクタク チクタク チクタク

ぼんやり庭を見ていても
チクタク時計は時を刻み
チクタク チクタク チクタク

どよよんとそれとなく過ごした昨日も
チクタク時計は懸命に針を進めていた
その心地よいリズムの記憶はない

チクタク チクタク チクタク
チクタク チクタク チクタク

ずうーっと昔むかし
オギャーと産声をあげ産湯につかり
まんまるい地球の仲間入り

チクタク チクタク チクタク
チクタク チクタク チクタク

二足歩行の類人猿として歩きはじめ
運よくという大きな傘に守られ
何となく今日まで歩んでこられた

チクタク チクタク チクタク
チクタク チクタク チクタク

高齢者のという烙印をおされると
転げ落ちるように体力が衰え
このまま目をさまさなくてもと寝る

チクタク チクタク チクタク
チクタク チクタク チクタク

地球はチクタク時計を背負い
永遠にぐるぐる太陽をまわり続け
逝く人を静かに見つめている            

チクタク チクタク チクタク
チクタク チクタク チクタク

生まれかわることができたら
宇宙まで呑み込んでいる
チクタク時計になりたい                    44行

58
 夏の昼下がり


あなたが
食べそこなった
青空を

今 ぼくが
食べています

デザートは
もちろん
白い雲

明るい
夏の昼下がり

57
 ひみつ

ものがたりを
つくりたいという
やさしさをもった
おとこのこ

ものがたりを
つくるというを
やさしさをだいた
おんなのこ

そんなふたりが
なかよしになって
えほんをつくりました

ものがたりのなかみは
ふたりひとりの
たいせなひみつです

56
 風の匂い

かたむいた家に
かたむいたような風が吹く
わたしは風の匂いを嗅ぐ

ヒトが住まなくなった空き家に
初夏の風がいつものようにそよぎ
からみついた蔦の葉を小刻み震わせる

草ぼうぼうの狭い庭にも
土台にも柱にも屋根にも歴史はあった
今 それらを覚悟よろしく
全否定して消えようとしている
わたしは風の匂いを嗅いで確かめる

息切れする長い坂道
その上がりきったあたりに
濃淡鮮やかなみどりで覆いつくされ
崩れ落ちそうな空き家はある

わたしはせかされるように
足早に通り過ぎる     
坂下からの生温かい風にのり  
背後から カラスなぜ鳴くの ー
今日の終わりを告げるメロディー

最初に嗅いだ匂いはー
なまくさくも新鮮で
生がほとばしり
明日へのいのちをつなぐものだった

あれから今日まで
青い飛沫を吐き 
それなりに大人の務めをと
うつ世とあの世との塀をわたり

わたしは生きている
これを誰に伝えていいのかー 

55
 満月を見る

身を隠すほどの
悪いことは
しなかったし
する度胸も
なかった

ただ
ハヒフヘホ

息を
吐いたり
吸ったりして
静かに生きてきた

それが
わが人生の
すべてだった
としても
悔やむべき
理由は
どこにもない

わたしは
満月を見る

54
 嘘の明暗

明るいうそと
暗いうそは
なかよく縁側で
日向ぼっこをしながら話している

明るいうそは
しかめっ面してうそをつくより
冗談を交えたほうが楽しい

暗いうそは
明るい笑顔でうそをついたほうが
信じてもらえる確率は高いよ

明るいうそと暗いうそは考える
最初からうそだと思い聞いていれば
精神衛生上にはいいはずだ

サピエンスとよばれるヒトは
嘘の世界はないと思っている
つまづきはいつもそこから始まる
明るいうそも暗いうそも
かくはん機でかきまわされ
すべてがうそになる

歌を忘れたカナリアは裏山に捨てられ
カラスは七つの子の歌を忘れ
真実が鼻っ先にちょうちん袋のように
弾けるのをこらえぶら下がっている

53
 悲しみ峠

一週間で三人も見送り
いのちの重しを背負わされ
わたしは悲しみ疲れ

ひとつ目の悲しみは
幼なじみの訃報を
人づてに聞いて
長い不義理の自分に腹立たしく
悲しみ峠が霞んで見えた

ふたつ目の悲しみは
深夜 遠縁の不幸を知らせ
受話器を持つ手が震え
告別式に参列できない
老いた自分のからだに嘆き
無念の悲しみ峠は遠かった

みっつ目の悲しみは
あまりにも身近過ぎる連れあい
息子の喪服に肩をかけ
杖をたよりに葬列に加わり
妻の遺骨を抱き葬儀場を後にした

八八歳にもなれば
これまでたくさんの悲しみ峠を越え
鍛えられ逞しくなったはずだが
もはや峠越えは
自力では無理との宣告を受けた

ああ 悲しみ峠に降りそそぐ星よ
いつまで輝き続け
悲しみの葬列を見送れば
気がすむというんだいー

52
 朝の匂い

木のなまえは知らないけれど
木を見あげるのは好きだ

花のなまえはわからないけど
野辺に咲く可憐な花は好きだ

今朝 一番で
やってきたお客さんは
白いモンシロチョウ二頭

オスだかメスだか
なまえもわからないが
それでも好きだ

51
 六月の青い風

水が張られた田んぼに
幼い苗は風にそよぎ
水面に青い空を映し
若草色のいのちを
ひたすらに育む

ああ 六月の青い風よ
かくも美しきみどりをたたえ
地上を走り抜けるのかー

ああしたことや
そうしたことを
真綿にそうっとくるみ
すれ違いざまに囁く
大いなる生の賛歌

ああ 六月の青い風よー

50
 もっと遠くへ

もっと遠くの遠くへ
あて名もない
知らない土地へ行き
それから
音もたてず
すうーっと消える

そう どこまでも真っ白な世界へ

咲き乱れる花々は
どれもが 真っ白で
音もたてず風に揺られている
いつか どこかで聞いた
彼岸の花畑とは 違っていた

こんな世界をみたのは初めて
この世とあの世とかかる橋もなく

そう どこまでも真っ白な時間があるだけ

49
 涙の五月

両手で水をすくい
顔に近づける
水はゆらゆらと揺れ
私の顔を映している
何度も見た顔だ
見飽きた顔だ

その後ろで水は
蒼空が揺れ
みどりがそよぎ
遠くから聞こえる
ウグイスの鳴き声まで
映しているようだ

そんな初春
ひとりの赤ちゃんが生まれ
痴呆で悩まされたと愚痴た
ひとりのおばあちゃんが死んだ

わたしは
私の揺れる顔と重なり
思いのたけ顔を洗った

48
 過ぎし日の風のそよぎ

百姓の長男の家に嫁ぎ
結いの当番日
たくさんの村衆が手伝いにきた
精一杯の務めをと
早朝から姑と働きづめ

昼食を出し終えしばし休息
疲れと心地よさに
わたしはウトウト
ウトウトが爆睡に 

長男のあなたは
わたしのおもたい乳房に
押しつぶされ
あっけなく命をとじた

白いもみじ手が
からみもつれながら
わたしをさがしている
現世(うつよ)と幻(まぼろ)世(よ)の日々 

まだ若いんだから
がんばってもういちど
元気な赤ちゃんを産めばいい

澄み渡った青空を
大きな投網ですくうように
村衆のだれもが優しく
わたしを励ましてくれた
               
夏の陽を浴び
田んぼの稲穂は青々と輝き
過ぎし日の風にそよぎ

そして
わたしあなたの弟の孫を抱き 
流れる白い雲を見ている

47 詩人会議応募
 八月の沖縄の青い空 

僧侶姿で坊主頭の白人
大声で叫び つめ寄る
「アナタハナゼシャシンヲトルノデスカ」
手に持つ太鼓をバチで激しく叩き
「デモニサンカシナサイ」

一九歳のぼくは柔順に
カメラをバッグにしまい
コブシを突き上げた
空はどこまでも青く
白人のブルーの瞳より青く
空いっぱいに広がっていた

澄んだ青空を横切るように
戦闘機が鋭い爆音を残し
ベトナムの方角に吸いこまれ
地上では沖縄を還せ!
デモ隊の大シュプレヒコール

もう半世紀前のことだ 
一九六八年終戦記念日
沖縄本土返還を訴える
コザ基地から那覇市内までの大行進

過ちの遺産を背負う重みに
ぼくは行き先を見失い
あれから半世紀 黙したままだ 

ひとつだけ信じてほしい
あの時の沖縄の空は限りなく青く 
コブシを突き上げる人びとの頭上から
従属国からの解放を願い
熱いエールを送っていたことを―。

46 詩人会議応募
 スズメよ

スズメよスズメよ
どこまでもどこまでも
スズメであれ

スズメよスズメよ
スズメであることに
誇りと自信をもて

スズメよスズメよ
スズメであればこそ
自由のつばさで飛べ

スズメよスズメよ
スズメとして生き
スズメとして死んでみろ

45
 きみの悲しみに

きみの悲しみは
どんなのかわからず
わたしは
今日まで生きてきた

きみの悲しみを
知ろうと
わたしは
今日も生きる

きみの悲しみを
もっと深く知るため
わたしは
明日も生きよう

44
 みどりのおおひねり

小高い丘にある
みどりというみどりに
覆いつくされた雑木林は
しじまを突き破り
生を咆哮し続けている

風はみどりをたぶらかし
あまい言葉で呼びこみ
葉音をうならせながら
抱き合ったり離れたり

生まれでずるものに
罪などあるわけがない
寄りそう生きものは拒まず
飛ばせるだけの種子を
まき散らし 子孫繁栄に賭ける

すべての生きものは
締め切りが用意された
滅亡列車に乗っていることは
みんな知ってるけど

あくなき生を求めるのはみな同じ
今日より明日やつぎの日も
生きていたいんだよ
やっぱりいいんだよ

みどりの大ひねり
みどりの大うねり

43
 荒れた天気

ラジオの天気予報では
荒れた天気になるという
それならば
荒れた言葉を
思いきり吐きだしてみよう

暗雲たれこめた空には
研ぎ澄まされた刃を
振りかざすように稲妻が走り
地上は激しい驟雨が駆け抜ける

ところが意に反して
歌を忘れたカナリアにように
言葉はひとつも出てこない 

どうしたものだろう
荒れた天気と荒れた言葉
どんな因果関係があるのだろう

稲光に喚起されるように
静まりかえった
真白き雪原に降りそそぐ
黄金色に照らされた
山村の生まれ故郷を思い出す

ひたすらの沈黙とともに
満天の星群たちの光は
雪原に惜しみもなく吸いていた

すべては大地を目ざし
消えてゆく定めだったのだ
荒れた空も荒れた言葉は
もともと存在しなかったのだ

42
 どこまでも青い日

さみしきこと
かなしきこと
くやしきこと
あなたは
声をふるわせ訴える

百姓の長男に嫁ぎ
結いの日
村衆が手伝いにきた
務めを果たすべき
姑と早朝から働きづめ

昼食を出し終え
疲れと心地よさに
わたしはウトウト
ウトウトが爆睡に

あなたは
わたしの
おもたい 20
ちぶさに
押しつぶされ
あっけなく命をとじた

大きくゆったりとした青空
白い雲が迷子になったように
西へ流れたり東に流れたり

白いもみじ手が
からみもつれながら
わたしをさがしている
現世(うつよ)のきょう

まだ若いんだから
もういちど
元気な赤ちゃん
つくって産めばいい

村人の優しさは
大きな投網で 20
澄み渡った青空がすくい
わたしを励ましてくれた

夏の日を浴びた
田んぼにあおあおとした
秋の収穫を待ちこがれ
風にそよぎ
どこまでも
明るい青空が広がる

そして
わたしの胸には
あなたのおとうとが
青い稲穂と白い雲を見ている 13

41
 クビ折れたヒマワリ

気怠い夏の夕ぐれ
ぼんやりした眼(まなこ)で
クビ折れたヒマワリを見つめる
ふと聞き覚えのある声ー

66(ろくろく)のぞろ目で
黄泉の国へ
あっけなく旅立ち
ぶっきらぼうに
棺におさまっていたはずのー

ナメクジのように
そろりのろりの毎日だよ
どうだい あちらさまの世界は
桃源郷だと聞いているがー

なあーんも現世(うつよ)と変わらないよ
昨日だってあるはずもない
家の境界線をめぐって大騒動
仲介にはいったおまわりさんが怪我

あちらさまにも交番があるんだ
警官が駄目なら機動隊で
どんづまりは自衛隊の出番かいー

毎日が退屈だから
あることないこと
ものがたりをこしらえ
欠伸をかみ殺してるんだよ
賽の目が丁とでたらニタニタ
これが半とでたら青筋ピクピク

おいらも近からず遠からず
ラストワークだ
すっぴんで逝くよー

40
 時の過ぎ行くままに

ああ
今日で
四月のふつかめ。
四と死とふたつ。

空はくるわ色。
おもいのたけ
光りは
こんもり山に
たたきつける。

ひかりは
惜しげ気もなく
まんべんに
放射する。

戦う術もなく
ただ、光る。
その
あどけさに
祝杯をあげよう。

39
 先人から学ぶということ

先人に学べと教えられ
先人はその前の
先人から学び
そのその前の先人も
先人から学んだ

人類誕生から
今日までの歴史は
ひたすら先人の
教えを学び歩み
生きながらえれてきた

先人からの教えを
ひとつだけ拒んだ
アリの視線から
地球を見ることだ

ひたすら
身勝手な方便を
たぐり寄せ
たどりついたのは
地球破壊という
とんでもない行為

土塊とともに
せっせと
働くアリたち

その生きざまは
見えない
風の音に
耳をかたむける
純粋さを守りとおし
生きている

38
 涙の行方

あんなに
全身をさらけだして
二十歳の
女の子が泣けるのだろうか

しゃくり むせび とぎれ
闘病三年半から復活
一位になった池江璃花子は
涙を流しインタビューにこたえる
「ずうーっと先だとおもっていた」

地球温暖化に不安を抱き
「子どもたちの未来を奪っています」
十六歳のグレタ・トゥーンベリは
国連でおとなたちに訴えた

ずうっーと先と未来
ふたりのことばには
明日への生がみなぎる


踏み込み台にたち
おそれることなく
プールに飛び込み
池江璃花子は
ずうーっと先の可能性に挑んだ

嘆きの渦中にありながら
逃げ道が狭められ
蝕まれる地球は
ことばを発せない

代弁者として登壇したグレタは
愛するおとなたちに
未來があり生きられる
希望をせつに求めた

わたしは
たじろぎ うろたえ
ふたりのことばを
胸にあててみる

老いるということは
未來を語れない口惜しさ
ただ こどももおとなも
地球で暮らしたいんだ
それだけを胸に刻む

37
 酔っぱらい

ひとくちの酒が
呼び水となり
酔いつぶれるまで飲む

正体不明のまま
布団にもぐりこむ
枕が足もとにけちらされても
翌朝はしっかり目覚める

のどはカラカラに乾き
ふらつきながら洗面所へ
蛇口を目いっぱい左へ回し
どんぶりにたわわにそそぎ
喉もとに勢いよく流し込む

あまりの水のうまさに
ああ昨晩の酒は
なんだったのかー
口からあふれた水を拭う

やたらと口角泡を飛ばし
大声で喋りまくった言葉は
音階も音符もバラバラ
読解不能の暗号となる
喋っている本人さえ不明

酔いの勢いにまかせ
嘘つきは大きいほうがいい
法螺をふきまわるなら台風なみがいい
昨晩 吐いた言葉がの断片が
ちぎれちぎれ脳内を走る

あの放言の数々は
どこまでも青さに満ちた
少女の澄みきった
つぶらな瞳とは違い
清らかさはひとつもなかった

むくんだ顔と
淀んだ瞳を映し
鏡はしっかりと
証拠を残している

36
 季節に

春の匂い
夏の輝き
秋の佇まい
冬の沈黙

雨はふる
風がふく
音もたてず

大地と
不可解なかたちで
ふれあった時
はじめて
音を発する

35

 大丈夫ですか?

メールが入る
インドのオロクさんからだ
地震は大丈夫ですか?
発生して数時間も経っていない

世界のつながり狭くなった
密になれほど時間は圧縮され
地球ひとめぐりで沸点に

あの時間はどこへ行ったのかねー
昨年亡くなった義母の声が聴こえる
川べりで女衆が集まり
洗濯をしながらのお喋り
あのゆったりした時間が懐かしい

こんなことも言っていた
死んでからお礼はいえないから
いろいろありがとうねー。
甘える声でゆるやかに手を握りしめた
あの言葉にはぬくもりがあった

アルファベットの文字を追う
たどたどしくない
ローマ字で書かれた日本語
地震は大丈夫ですか?

声は聞こえずも
ことばが地の果てから放される
世界がどんどん狭くなり
不幸も幸福も共有財産
だが 何かが確実に失われつつある

知らなくてもいいこと
素通りしていいこと
それらがいっしょくたになり
世界を席巻している
もしかして
世界がつながりすぎたのだろうか

ふと見上げる空に
ちぎれ雲が
どんどんちぎられちぎられ
蒼空に吸い込まれ消えた

34
 午後の五時

淋しさがしのびよる
午後の五時
ススメたちはやってきて
エサを忙しくついばんで
チェチェとさえずり
一瞬にして飛び立つ

壊れかけたエサ台は
オレンジ色の
強い西日が射し込み
宴のあとの余韻に浸る

コロナ禍の生活は
張りめぐされたテグスを
避けよと 窮屈さを強いられ
かくも 長きにわたるとはー

マスク越しの心音は乱れ
ヘドロとなり異臭を放し
ためられっぱなしで飽和状態

午後の五時
防犯スピーカーから
カラスなぜ鳴くのメロディー
巣ごもりした人々に伝える

その音色に誘われるように
エサを求めやってくる
数羽のスズメたちを眺めるのがー
せめてもの慰めでもあった

スズメたちは
許される自由を生き
約束ごと包囲されたニンゲンは
自由であることの尊さを噛みしめ
カラスのメロディーに耳をかたむける

33
 失われたもの

筋力は萎縮
カメラを持つ重さ

目の衰え
文庫本を読む辛さ

聞こえるのは
耳障りがいいのだけ

トイレの生きた匂いは
遠くに逃げたまま

甘い舌触りは
するりとすべり落ちた

32
 クリアファイル

どこまでも
透明で薄いシート
四角いなわばりを
あなたは待っている

すべてを平等に受けいれ
収められるものは
どんなものでも拒まない

豪放磊落な性格は
筆書きにあらわれている
遺言状に認められている文言を
あなたは誰よりも早く読みとる

晴れた冬の寒い夜
冠婚葬祭のほかに
滅多に顔を会わせることはない
一族郎党の遺族たち

テーブルに置かれた
クリアファイルを前に
固唾をのんで見守る
この時間をクリヤーすれば
なにもかにもがうまくいくのだ

クリアファイルから取り出される
遺言状の一つひとつのことばの重みに
前頭葉を全回転させる

クリアファイルは
すでに知っている
これから
ベートーヴェン作曲
交響曲第九番合唱付
演奏会が幕明けとなることをー

31 詩人会議4月応募
 クビ折れたヒマワリ

気怠い夏の夕ぐれ
ぼんやりした眼(まなこ)で
クビ折れたヒマワリを見つめる
ふと聞き覚えのある声ー

66(ろくろく)のぞろ目で
黄泉の国へ
あっけなく旅立ち
ぶっきらぼうに
棺におさまっていたはずのー

ナメクジのように
そろりのろりの毎日だよ
どうだい あちらさまの世界は
桃源郷だと聞いているがー

なあーんも現世(うつよ)と変わらないよ
昨日だってあるはずもない
家の境界線をめぐって大騒動
仲介にはいったおまわりさんが怪我

あちらさまにも交番があるんだ
警官が駄目なら機動隊で
どんづまりは自衛隊の出番かいー

毎日が退屈だから
あることないこと
ものがたりをこしらえ
欠伸をかみ殺してるんだよ
賽の目が丁とでたらニタニタ
これが半とでたら青筋ピクピク

おいらも近からず遠からず
ラストワークだ
すっぴんで逝くよー

詩人会議3月応募
30
 春のにおい

気がつけば
ぐるりんこと
全身を荒縄で縛られ
骨抜き
ニンゲンとなっていた

いつのときも
状況に応じ
機敏に動いた
しなやかさは失われ

あのゆるやか思考
あの頑健なまでの肉体
いまでは硬直したまま
さびつき朽ちようとしている

喝をいれなければと
毎朝の怠惰な散歩は
せめてもの抵抗

それも日々億劫になり
日めくりカレンダーは
音もたてずめくられ
虚しく捨てられる

それでも時おり春風が走り
すうーっと耳たぶをくすぐり
新芽の匂いを嗅がせてくれる

生者への贈りものだ
生きていればいいんだよ
そんな声が聞こえそうな
自然の健やかな生の息づかい

ゆっくりと
歩を進める
愛しき
春のにおい

29
 眠れるぬ夜

もっと
眠れぬ
夜があった

もっと
眠れぬ
夜もあった

そのまえの
眠れぬ
夜は忘れた

それでも
眠れぬ夜は
いく晩もあった

満月は
夜空に
青白い光

まとわりつく
しがらみ
星くずたち

朝まで
月光は輝き
一日の幕明け

眠れる夜に
眩しい光
蹴散らし

闇を求め
深い眠りに
はいる

28
 釘を打つ

寸分も狂いもなく測られた木材は
寸分の狂いもなく組み立てられる

西日が射し込んできた夕方になっても
職人たちの釘を打つ鋭い金属音はなりやまない

打たれる木材に思慮はいらない
職人たちは機関銃の銃口から
正確さを求め釘を連射する

打たれる木材は鉄という異種を受け入れ
ジグソーパズルを組み合わせるように
柱が立ち梁が繋がれ家は出来上がってゆく

静まり返った住宅地に
カラーンカラーンカラーンと
不釣り合いの音はをたて家族を迎える

聞こえるのはもしかしたら
遠い国で無慈悲に伐採され
強制的に送られてきた
木材の悲鳴ではないかーと疑念

遠くへ視線を移す
多くの材料が寄せ集められ
カラーンカラーンカラーンと
異民族の集合体のような家は
痛みをこらえるように
夕日を浴び 家の骨格を浮かび上がらせている

27
 静寂の朝

明けゆく空に目を細め
ときめきを抱きしめながら
こころゆるやかに見つめる

茜色がだんだん濃くなると
霞ヶ浦の湖面は静かに
全容を浮かびあがせる

水面はひたすらの黙に伏し
真新しい光をを迎え入れ

凪ということばに似つかわしい
さざ波を奏でる

昨晩は雲に覆われていた
語りかける
月も星も見えなかった
孤独な夜は湖として
生を受けたときからだ

風だけは休むことなく吹き
波をたて、波を打ち、波を流し
そんな波と話しているんだよ

明日の夜や
明後日の夜に
期待をときめかせるように
一晩中話しているんだよ

水鳥たちも波に揺られ
明日への眠りについている
密やかな楽しみを夢み
じっと待っている
永遠の夜なんてないよ

いつもの夜のこと
いつもの夜のこと

26
 春の匂い

あなたは春の知らせとともに
音もたてず風に運ばれてくる

まっ直ぐに伸びた幹に
たわわにはらませた
つぶらな赤茶色い実をはじかせ
気まぐれ風にのり
生きる歓びをハミングする
もっと遠くへ もっと遠くへ
あなたは伝える 春の息吹を 

風は今日という日を待ちわびたように
あなたの声をとどけようと
こんもり山の雑木林を揺する
あまねく平等に限りなく遠くへ

花粉症に悩むひとは
一瞬にして春を嗅ぎわける
喜びと憂うつを
どんな色で区分けしたらとー

三種の神器を思いおこす
鏡、剣、玉ではない
目薬、鼻噴霧、錠剤
神棚に鎮座するものが
春の到来ととも衣替えするのだ

そんなはずではなかった
こんなはずではなかった
子どものころ
杉鉄砲をして遊んだ仲間ではないか

25
 いろんな

ある日突然
置手紙も残さず
地上から家出してくれることを
ただ じっと待つ
心地よい春のぬくもりの下で

いろんな
いろんな
という
約束ごとは
ひとたばにして
桜川に
流してしまおう

いろんな
いろんな
という
希望は
雑木林に
捨ててしまおう

いろんな
いろんな
という
つながりは
かみなりさまに
断ち切ってもらおう

いろんな
いろんな
という
悲しみは
気ままな
かぜに
吹き飛ばしてもらおう

いろんな
いろんな
という
ことばを
かきあつめ
たき火で
燃してしまおう

24
 一番と二番

いちばんにやさしいのは
どんな色をしてますか?

いちばんに美しい言葉は
どんなならびですか?

いちばんに心地よい音色は
どんな音階ですか?

いちばんにかぐわしい匂いは
どんな芳香ですか?

いちばんのつぎにやってくる
にばんという数字は
いちばんとどんな関係がありますか?

どんどん問いかけがひろがり
銀河系の最果てまで続く

わからないことを知りたい
知らないことを教わろうと
世界中から声が届き
神さまはこまった顔をして

マスクなしの
あなたの顔を見て
お話しをしたい 
ひとことだけ

23
 青春(あおはる)を走る

青い矢はまっしぐら
何を目指せばいいかもわからず
ただ走るだけがわが人生とほざき
手ごたえのある奴と出くわし
体当たりしてみれば
いとも簡単にはじき返される

負け惜しみに蹴とばしたのは電柱
痛さと口惜しさと
わけも分からない憤怒は収まらず
肩で風を切り
新宿歌舞伎町の夜を走った

相手は誰でもいいのだと
暴れまわったのはいいが
相手は地元のやり手兄ちゃん
気がつけば後ろから強烈な羽交い絞め

パトカーの赤色灯はぐるぐる回り
喧騒の闇からの現れた野次馬
路上寸劇のように楽しんでいる

警察でさんざん絞られ夜道をとぼとぼ
ネオンだけがやけに眩しく輝いていた
子どものころ冬の夜空で見た
あまたに輝く星くずではなかった

「母に引き取りをー」と係官は電話をしたという
「成人式を終えた息子ですから一晩泊めてください」
「青春」を「あおはる」と読み
「バーカね、せいしゅん」と母
 バーカは青春をひたすら走っていた。

22 詩人会応募2月
 真白き富士の嶺

ねぇ、あんた
最初で最後の読者の
詩なんか考えていないで
わたしの痛い足を
優しくもんでおくれよ

ねえ、あんた
そんな渋柿のような渋面して
真剣にことばと向き合って
町内会と喧嘩でもするつもりかい

ひねもすぼうーっと
遠くに流れる雲をながめ
うつろ万感の大きな欠伸をする
ふうっと ほうっと するりんこ
生きた言葉は生まれるんだよ

都月次郎先生が
おっしゃっていたじゃないの
切れ味のいい包丁と素材
わが家には砥石もないし研ぎ方も知らないし
素材を探す知力となると
痴ほうが進んできたからさぞ大変ねー

ささくれだった爪の隙間からも
生きた言葉が音もたてず
生まれる時だってあるんだよ

ねえ、あんた
もう 獏は食べ飽きただろうから
裏の畑から大根一本を採ってきてよ

そう わたしが
一番輝いていたころそっくり
新鮮で瑞々しく
真白き富士の嶺のような
すくっとした あの大根よ

21 詩人会議応募
 忘れるということ

テレビのリモートスイッチを
どこかへ置き忘れ
部屋中をひっかきまわし
二時間も探したという

恐れることではない
年寄りの大切な仕事のひとつだよ

たくさん忘れることができる
年齢まで歩んでこられたのだから
肩で風を切るように
どんどん忘れることだよ

あなたは憶えているかい
あなたが生まれた時のことを
きっと忘れているよね
知っているのは
とうの昔 黄泉の国に旅立った
あなたのお母さんだけ

忘れることは
思い出そうという生のいきづかい
リモートスイッチは存在し
あなたを待っているということ

あなたは
どんどん忘れることだよ
それでも
あなたの立ち位置はゆるぎないよ

20
 吠える

引き算と足し算に
赤、青、黄の信号灯は光る
あの時の
青い信号灯は
走ることだけと
吠えていた
それでもいい
それでもいいと
青い矢はまっしぐら
刃が口折れ
砕けることもしらず
あばれ 暴れ
ひと休み
見あげた空は
真っ青
思わず母の
大きな乳房に
かぶりついた
日々を思い起こす
たんたんと
白い乳はあふれ
口をぬぐう間もなく
こんこんと
おっぱいの谷間で
眠っていた
思いでは
余りにも遠すぎる

19
 春を待つ

春を待ち続け
重ね着したように
ただ 疲れた

季節が冬という
凍える寒さは
いく枚もの
重ね着をすればいい

春を待つ心は
疲れたという
言葉さえも忘れ
疲れ果てている

いつもの春よ
すっぴんで
やってきておくれ

18
 コロナへの遺書

あの日
地上のいきものを
悲しませるような
広い空を
黑い雲が覆っていた

薄墨色という
万感の郷愁を誘う
色合いと違った
どす黒い雲
あれは何かの
兆しだったのだろうか

あの日から
あの日からだった
世界の人々は
ひとつだけの命に
刃を突き付けられ
沈黙を余儀なくされ
怯え狼狽えた

自由であった社会は
簡単にぶち壊され
うちのめされた

侵入者の顔が見えない
息づかいもなく
足音ひとつ立てず
沈黙という鎧に身をかため
あたりにまき散らし
人の命を奪い取っていく

どうだ生き残れるかい
これからも
地上に棲息するつもりか
その重い問いかけに
世界の人びとは慄き
答えがないと知り窮した

見えない恐怖に慄き
人びとの心は凍りつき
中傷にも追い打ちをかけられ
怯える心は萎縮して
生きる残る価値はあるのかー
自ら審判を下す者まで現れた

あの日から
なんども晴れたり曇ったり
空はなんでもないように
地上を見ている

17
 長い眠り

あの日はどんづまりだった
あれは貧乏だけではなかった
目に見えない何かが
全身をしばりつけていた

あの日は
今日よりもっと
疲れていたはずだ
何に追い込まれていたのだろう

あの日のどんづまり
懸命に思い出そうとするが
濃霧に覆われたように霞み
今日まで雲隠れしたまま

今でもどんづまりの日々だが
何か出口が見えるような気がする

七歳年上のかあちゃんが先か
七歳年下のおいらが先か
サイコロは二つの目しかない

どんづまりを脱出し
暗く長いトンネルを抜け出し
明るい光を
瞬きもせず見れような気がする

16
 白い陶器

暗やみのなかで
わたしは
すくいの神を探す
場所は畳半分の部屋

手探りでも
すぐにわかる
生きた年数の
何十倍も何百倍も
お世話になった
白い陶器

いつもの姿勢で
静かにすわる
そして
暗やみでも瞼を閉じ
大きく深呼吸して
今生の幸せを
かみしめる

こうして
ひとりで
用便がたせるという
歓びに浸る

暗やみの世界に
明るい明日が見え
暗やみなんて
ちっとも怖くない
そう 思う

15
 手ざわり

手ざわりのある
生活をしたい
五感でふれるざわつき

いつものような
さわれることができ
こわれそうでも
やわらかさがあり
つつみこみ
抱きしめるあたたかさ
そんな手ざわり

手ざわりのない
日々をおくり
いつのまにかいちねん
いちねんという時間は
紋様的には美しく
幾何学的に整っているのか

忘れかけた
手ざわりを探すように
自らの顔を鏡に映し
なでまわしてみる
温もりは交歓している

ああ みんな
生きているんだ

消えない記憶
頬をよぎった
名もない風の囁き
明日こそ
正夢で終わらなければ
手ざわりのあるいちにちをー

14 詩人会議自由応募
 死んではならなかった

きみは
死に方を
知っているようだ

知らなくても
知る必要もなかった
それなのにきみは
知っている死に方で
自らいのちを絶った
そんな度胸があるのなら
なぜ生きる度胸はなかったのか

走る電車に
線路に飛び込み
自らの手でいのちを裁いた
黑い線路は
無数にあるが
いつかは終着駅だというのに

君よ自らの
命を絶ってはいけなかった
身構えて生きるべきだった

ただひとつ
死するべきことは
おのずとやってきて
静かに消えるのだ

13
 おーい、大丈夫かー

雪道の運転は
地元ナーバーのクルマの後について
ゆっくり走るんだぞ

東京を出発前に
経験者から教えられた
最初は忠実に守っていた

あの日の夕方 魔がさした
ワイパーが効かないほど
猛烈な吹雪の峠でノロノロ走る
地元ナンバーのクルマに苛立ち
カーブの手前で追い越す

道路はアイスバーン
勢いのついたタイヤは滑る
慌ててブレーキを踏む
スケーターなみのスピードで
雑木林の中に突っ込む
気がついたらまっ逆さま
           
暗やみの彼方から声がする
「おーい、大丈夫かー」
聞こえるが身動きができない
呆然と運転席で上向いているだけだ

追い越されたクルマが
急に目の前で消え驚いたのか
地元ナンバーの男たちが叫んでいる
「おーい、大丈夫かー」

12
 はにかみ言葉

もっと遠くて
見えないと思っていた
すき間を
かいくぐるよように
明日が
見えるときがある

もっと優しく
愛を伝えたいときに
明日が
隠れしまうこともある

そのとき
空は青色につつまれ
沈黙していた

ふたりで
世界の幸せを
ひとりじめした時
愛はすうっと逃げる

あやふやと
もやいと
こんとんと
争った世界のはてに

明るい陽ざしを受け
ひなげしが
それこそ
けなげにたくましく
えがおで咲いていた

とても
美しかった

11

 ざわつき

ざわざわと
ざわめく室内で
和楽器の音色が
ポロンとひろがると
会場のざわつきが
瞬時に停止する

なぜだろうー
だれも
指示したわけでもなく
だれかが
くちびるに指をあて
十文字を作り
合図したわけでもなく

ただ 
ポロンと
琴の音色が
弾かれ響いた
それだけなのに
ざわつく室内は
一瞬、緊張感につつまれ
水を打ったように
静まり返る

人びとの
生と死のバランスが
成立しなくなった
沈黙の間というのは
琴線にふれるような
すごみをもっている

10

 愛するということ

こんもり山と
名づけた雑木林
からっ風にあおられ
ゆうらん ゆうらん
ゆううらん ゆううらん
大きく波打っている

エノキは惜しみもなく
覆い被さる道路にも
吉田さんの庭先にも
大久保さんの洗濯物にも
葉っぱを舞い散らす

やせ細った小枝を震わせ
小声で囁きあう
なんでもないことだよ
大地に芽をだしときから
定められた運命なのだ

ニンゲンだって同じだよ
冬という季節をのりこえ
いつかはきっぱりと
地上から消えるのだ

まるはだかになって
愛してみよう
冬という季節を—

9

 なんでもないこと

追いかけ
消したい風景が
白髪を逆立て
頭の中をかけめぐる

追いかけ
消したい風景は
時が一瞬とまり
霧の中で迷い
立ちすくんでいる

ひざをおり
天をあおぐかー
地に伏せるかー

なにを信じ
なにを求め
なにを恐れ
生きてきたのだろうー

あたりまえのことだよ
ひとが死んで
どこかへゆくかなんて
なんでもないことだよー。

追いかけ
消したい風景は
鋭いことばを吐き
霧の中に
消えてしまった

8

 浮気なこころへ

こころは浮気者だから
ひねくれたり
うつむいたり
突然 堰を切ったように
叫んだり吠えたりする

こころに訊く
何が望みなんですかー
何処へ行きたいんですかー

そんなに遠くない
きれいな花畑を越え
明るくも暗くもない
森の中にある
こんこんと泉がわくほとりで
ひとやすみしたいのです

ちょっと座りこんで
宇宙の彼方にある
永遠という言葉を
静かに噛みしめ
たじろぐことのない
わたしはわたしに
語りかけてみたいのです

そして
うたた寝しそうな
愛するということ
信じるということを-
ちょっとだけ考えたいのです。

7

 愛する冬

こんもり山と
名づけた雑木林
からっ風にあおられ
大きく波打つ
ゆうらん ゆううらん 
ざわわぁ ざっわあっ
 
落葉樹は
きっぱりと覚悟を決め
ヒィルリ ヒュー 
シュルル ヒュールリ
潔く葉っぱを舞い散らし

常緑樹は色褪せた葉を
いたわるように
大きくうねりながら
葉擦れの音せわしく
ザワザワ ザアワワー 
バサバサ バーサバーサ

となりの葉っぱに語りかける
なんでもないことだよ
そう大地に 
芽を出したときからだよ

幹にあつまる
小さな虫や小鳥も
冬という季節をのりこえ
生につなぎ続ける
ひともそうであるように
みんな同じだよ

いつかなきっぱりと
みんな地上から消え
いつかは
復活ということを信じて

信ずることは
愛すること
愛してみようよ
冬という季節を

6

 スズメよ

わたしのいのちは
あなたがえさだいに
やってきただけすくわれる

わたしのいのちは
あなたのかんだかい
さえずりですくわれる

わたしのいのちは
あなたのいのちをつなぐ
くちばしですくわれる

わたしのいのちは
あなたのもんようで
すくわれる

わたしのいのちは
あなたがあたまをすくめ
かめるだけですくわれる

わたしのいのちは
あなたがとびたつ
はばたきですくわれる

わたしのいのちは
あなたがあおぞらに
とけこむとすくわれるる

わたしのいのちは
あなたほど
たくましくなくとも
スズメたちよ

5

 故郷の山

東方に住む老人は
ここからが一番美しい
筑波山を見上げ
自信ありげに話す

この土地で生まれ
この土地で学び
この土地で死ぬ

生まれた土地を捨て
生きる場所を転々とした
わたしには点として
故郷は残っているだけだ

それも年々記憶が薄れ
いくへにも連なった
峰々の名称もおぼろ

コアを見いだせない
自分の立ち位置が
不在者となっている

西方で暮らす老人は
ここからの紫峰が一番美しい
皺をふるわせ自慢する

時どき
生まれた土地を
こよなく自慢できる
生者なる老人を
うらやましくおもう

4

 ビンボードライブ

さあ 出発だ!
ビンボー街道のどんづまりまで
クルマを走らせれば
キラキラ海岸に辿りつける

白波たつ砂浜に座り
白髪をなびかせ
思いのたけ吐きだすのだ
過ぎ去った歳月は
いっさい慎み
これからということをー

ビンボー年寄り夫婦を
いたわるように
エンジン音は快調

ビンボーは
オートマチックでは
なかったはずだ
どこかで怠け
ギアチェンジを誤ったのだ
それは問うまい

さあ 大海原だ
まったく新しい未来を
打ち寄せる大波小波にー
訊いてみよう

波はことばを忘れたのか
ザッザアーザアザザー
濁音の繰り返し

まだ燃料は残っている
もっと 生きろよということだ!
かあちゃん、こっくり頷く。



 冬の案山子

冬の冷たい風は
湖面をつたい
地上に運ばれ
田んぼを走る

走り疲れた風は
冬の弱い陽を受け
破れすがたの 
案山子でひとやすみ

かかし
ひもじ
さみし*

案山子は声を震わせ
一枚の綿入れ半纏を
恵んでくれませんか
肩で休んでいる風に祈る

風がそうっと囁く
祈りで救えることは
なにひとつありません

案山子はそれでも祈る
だれかが
気ままな風にのせ
届けてくれると
信じているよ

凍えそうな風を
暖かな吐息で
抱きしめ
祈り続ける

*「案山子の祈り」ニランジョン・ボッドパッタエ(インド)



 雑草に訊く
 
失われたものは
戻ってきゃしないのに
それでもさかさまになって
生きられないものかと
雑草をむしり取る

雑草という名の
忌み嫌われている
おまえさんよ
どこで息を吸い
どこで息を吐き
いのちを刻んでいるんだい

四方八方に張りだした
根っこの多さと逞しさを
錆びついた脳天に
叩き込む 生きろよ

愚かなる夢よ
愚かなる闘いよ
愚かなる過ぎし日よ

雑草に引き抜いては
土を叩きはらう
こぼれ落ちる土をみる
根っこを見る
土にも根っこにも
天空からの光がさし
ツララのように輝く

根っこに訊く
失われたものなんて
あったのだろうかー
ないことをあると願い
あくがれを抱きつづけた
彷徨人ではなかったのかー

雑草は応える
それもいいんじゃないのー。




怠惰な散歩2017年 10 11 12
怠惰な散歩2018年 1     4  5 6  7   8  9 10 11  12 
怠惰な散歩2019年            8   9 10  11   12
怠惰な散歩2020年  1      4  5        9 10  11  12

   poem 2019 ぼんやりとした時

   poem  2020 ほうきの音

   poem  2019年より詩誌に発表済