大久保純子邸の秋景色  2019年12月27日撮影

















































ヒマラヤスギを見上げてから出かける父

 わたしの家の表門前にどんとそびえているヒマラヤスギの幹の直径は3メート70㎝。雷が落ち太い幹は根元で真っ二つ裂けたが衰えも見せず成長を続け、針のような形をした5㎝ほどの葉をつけ水平な枝と垂れ下がった小枝を見せている。
 調停委員をしていた父が仕事で出かける朝は玄関で家族が見送るのが習わしだった。その父が晩年、玄関を開け外に出ると数十メートル先に大きくそびえるヒマラヤスギを見上げ大きなため息をついた。いつものさっそうと胸を張って自信ありげに出かける姿とは明らかに違っていた。あの頃は、ヒマワラヤスギが何かの病気で青緑をした葉がいつもより輝きを失い弱々しかった。それを見た父は自分の体力の衰えをヒマラヤスギに通じるものを感じとったのか―。
 調停委員は民事や家事の紛争の解決に有用な専門的知識経験を有する者とされているが、その日の調停のことを思い深いため息をついたのかも知れなかった。
 ヒマラヤスギはヒンドゥー教においては聖なる樹木として崇拝され、古代インドの賢者はヒマラヤスギの森に好んで住み、シヴァ神に祈りを捧げ、厳しい精神修行を積んだという。父はその伝説を知っていてヒマラヤスギに何かの願をかけ出かけていたのだろうか―。
 ヒマラヤスギは常緑針葉樹でヒマラヤ山脈西部の標高1500mから3200mの地域が原産地で日本には明治初期に導入された。園芸植物として広く利用され公園や大きな庭園に植栽され、高さが時には60mにまで成長するというが、わたしの家で生きるヒマラヤスギは庭一番の40メートル(?)ほど―。 



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