語り: すみこ 写真: ふみのり |
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小箱にこめられたもの 母は小箱を収集するのが好きだった。和紙で作られたどこにでもあるような小箱には絵や文字がほどこされ素朴で味わいがある。ふたをあけると百人一首や折り鶴、糸まきなどとりとめないものばかり。わたしたちと一度もかるたとりを楽しんだことはなかったから百人一首はお嫁にくるまえに実家でやっていたのでは―。 母にとって小箱には桜井家の秘密の思い出がいっぱいつまっていた。小箱をあけて記憶の断片をつむぎひと時を過ごす。星くずを拾うように追憶にひたっていたのでは―。 大久保家に嫁いで急に増えた親戚や義兄弟に戸惑いやはじめて経験する家風の違いに不安の霧につつまれたとき小箱をそっとあける。そして漂ってくるにおいや品々を手にして疲れたこころによりどこを求める。過ぎ去った日々の中で生まれたあたたかい笑顔はうかびはずんだ声が聞こえてくる。 他人にはたわいない小物と見えてもそこから母にとって少女趣味と笑われようが、小箱は大切なものがつまっている宝物だった。
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