茶畑の女

茶花を手に裸足であなたは歩み寄る
あなたはわたしの前にすくっと立ち
両手を広げ白い歯をのぞかせ笑った
その瞳には青空が映り
背後に迫る深緑の広い茶畑はそよ風に波打ち
カメラのシャッター音が空気を乱すと
二人のあいだに沈黙の時が刻まれるー。

茶畑に点在している
掘立小屋に住み茶摘みを生業としているという
ガイドは日常の暮らしぶりには口を閉ざす
遠くに視線を送ると粗末な炭焼き小屋のようなものが見える
電気を引く電線は見当たらず
灯りは夜空の星くずを拾いあつめているのかー。
飲み水はどこから汲んでくるのかー。
つづら折りの急峻な坂道を登り運ぶのかー。
煮炊きの火はどんな工夫をしているのかー。

爽快な二月の風は渓谷を伝い
標高一二〇〇メートルの樹木をも揺らす
仏教徒が七割というあなたもそのひとりかー。
お釈迦様の歯を祀っているという
朝夕、キャンデー市内の仏歯寺からお祈りはここまで届くのかー。

あなたはわたしの手から受け取った一〇〇ルピーを握りしめると
再び白い歯を見せ微笑んだ
何だかわからない解放感と安らぎを覚える

翌朝、
わたしはホテルの洗面台の大鏡に向かい歯を磨く
今日、わたしは日本へ帰るのだ
タバコのヤニで黄色くなった自分の歯を見てほくそ笑む
そして、わたしはあなたの白い歯を思い出す

(■1円=1.37ルピー)




おひまな方はこちらへ