あちらさまへ 2016年


あちらさまへ 詩編(2006年2月26日より)

1,
ひたひたとうごめく羊水
あそこには死の淵がぽっかりとあいているのを
あなたは知っていますか-
(9/25)


2,
しからばの身支度も整わぬまま
あちらさまへ頭を向け
私が生まれたというのは本当だろうかー  
(9/25)


3,
あなたは
天が好きですか
地が好きですか
人間が好きですか
(9/25)                      
4,9/25
ひとはだれも水の中から生まれ
とつてもなく長く波間を漂い
消えてゆくのだ
綿毛が弾けるように消えてゆくのだ
それを知ったのはずうっーとのちのちのことだった
(9/25)

5,
あっちもこっちも
障子にカビが生えるように
ぼくの五体隅々まで
うつろな記憶の中に神はいなかった
(9/25)

6、
いちばんがいちばんになり
にばんがにばんになる

7,
まほろばに色づく
艶ごとは
桜か椿か桐か紅葉か
色は陰りを知っているだけに
怖い
ランドセルに若葉マークをつけたのは
春の季節だった

8、
意味もわからぬまままわる風車
思い出すだろう
引けないオルガンの鍵盤にさした
山々の蔭に沈む夕陽の光
空は一途に
夜になろうとしていた
ランドセルにつまった大きな夢は
カタコトカタコト
あの世を響かせていることなど
知るよしもなかった

9、
肉体は
何のてらいもなく
青空に飛び込んだ
そこには無限の会話を待ち望んでいた
たとえば
あの青空
いの命
うのうれしさ
おの驚き

10,
指を打つ
打つ指をみる
見られる鍵盤は驚く

わたしはピアノ
わたしはピアノ

うずくまるように
耳をそばだてる

空があり
地があり
天があり

聞こえるざわめきに
私は思わずくしゃみをする

その時
舞台には
私がいないことを
とても寂しく思った

音の聞こえぬほうに
顔を向ける
さまはなっていない
さまは逃げている
逃げ水は大海を目指していた
あそこに行けば
自由がある、厳しい自由がある

11,
大きな空がありました
午後の静かな流れに
あなたはすくっと
姿勢のいいスタイルで
立っていました
優しさとは
背筋を伸ばして
目を合わせ
お話しするのかと ふと思いました■■


12、
駆け足は疾走ではない
死は絶対に陽気であらなければならぬ
温みを知ったときから死に水は待っているのだ

13、
あれもこれもいりません
かみさま
ぼくがほしいのは
くしゃみがでるほどのたいくつさです
たいくつのたいくつのくりかえしで
ちくせきがたいくつのうえにドロを塗り
大きな盛り土となり
それがおれの墓場だとはしらなかった
たいくつということはどんなことかを知った時には
白い骨となりようやく土脈に入り込もうとしているというのだからこれこそお笑いだ

14,
春、あなたは新しい化粧をする
いろはときめき
時代がありました
つづらおりは
間違いであった
あきらかにその時点までは
間違いだった
ただ、
またはの時代を越えるまでの力があった
あることは人の力があったのか
つづらは人の手を加え

16,
遊びこける子どもに
死の呼吸などあるものかと思っていた
長い間 そう信じていた
それが
とんでもない間違いであることを知ったとき
地上が灰になっていた


17,
見えてきたのは
白内障に似ている
四季の草花のカレンダーをはろう
漢字表をはろう
世界地図を書こう
たとえ、白いシーツの上でもいい


18,
逃げ水は
ないていた
故郷を失い
友を失い
恋人まで失い
これ以上
失うものがあるとすれば
自分だけだーと
この弱さはどこから来るのか■■■

19,
これからのことは
これからこうきて
こうでもない始まりがあると思った
あらかじめ用意されたのは聞こえるだけの楽しみ
考えてみるがいい
そんなにあるわけものがないのを
ずーっとねだって生きようとしているのだから 
なんにもないときになんにもないんだよ
にんげんが生きているそぶりをして
ぬすんだ未来は
ねんころねんころ
のりそこね終電車のプラットホーム


20,
もっと自由が
もっと勝手に
もっとわがままに
もっと世捨てびと
もっと死への道を探そう

21、
天に走れ
地にもぐれ
賛美歌を聴け
お経を訊け
聞こえる耳の奥底でふるえる鼓膜はどんな顔をしているのか
あらゆる嘆き
悲しみ
苦しみ
歓びを訊け


22、
訊くがいい
訊くべく理由がある
訊かねばならぬ
寒々の言葉のひび割れの訊かねばならぬ
たわいない清楚な囁きに
耳を閉じて訊かねばならぬ
サンタのお耳がなぜあんなに大きいのかをしるためにも
23,
生きているような気がした
生きているようではなく
生きているような高揚感だった
あの、朝焼けの静寂に
私はどんな言葉をはわしせようとしているのだろうか

24,
死にぞこなった風を見た
おまえはどうしてどうなるかもわからず朽ちるにまかせる
その覚悟のよさに
ただ敬服するだけだ
リボンを付け忘れたクリスマスプレゼントのように
夕焼けにそびえている**


25,
明るさは
まぶしさではない
透明人間に
その重さも軽さもなかった
明るさはどこへいっていいのか分からず
ひたすら子どもたちの足元を照らしていた
願いは、ただただ未来に向けて
未来に向けて歩いて欲しいという願いだけだった


26,
とことんと混沌の
どこが違うのか
水は重たさを知らない
風は自分の軽さを知らない
音は
すべてを聞き入れる
そして流してしまう
この怪物に
のたうち回っているだけだ


27,
山が動く
動くのは山の背景で
嘘の定理をつくる
それから人々は
多くの繕いが始まった
いちのほころび
にのほころび
さんのほころび
しがは最後で
ひとは嘘をかためたまま棺に運ばれる
最後は
ほころびたちの饗宴
それは万華鏡をのぞくより美しかった
嘘は大切な
私の宝物で
宝刀殿の真玉かも知れない

28,
地の力を知る
天の乾きを知る
まぶたの裏に張り付いた
かゆみのような
もどかしさは
もっと生きろということだ

29,
革命のない人生なんて
混濁のない人生なんて
悶えのない人生なんて

指先にツバをつけ
乾いたアスファルトをなぞるようなものだ

天に向け
いとも簡単に
天空に溶けるだけさ

30,
ああー
刹那
せつなに
生きてきました
この世はなにもかもが極楽浄土(ももいろ吐息)■■■■■

31、
私には
ほっとする光景がある
そこは墓地だった
いずれこの場の住人になるという
まぎれもない事実。、これは素晴らしい楽園だ。

32、
覚えていないのは
記憶が途絶えたのではなく
定着させるべく目的を失かったからだ
進路を計れぬコンパスは
いつもかかしのよだれかけのように
風雨にさらされていた

33、
出口を探してもなかった
探すべくものがあった
刻印を押すような
力強さ、たくましさ、おそれない道しるべ
墓標はたしかにまっすぐに向かっていた
あちらさまではない
生まれたへそのあたりで

34,
あなたが冗談で
唾を飛ばした白いテーブルにいみじくも
曼珠沙華が匂うのは
植物か肉汁か
はさみ落としたら山羊のチーズ
ふさわしい
ふさわしい
こころは
こころはあるのか
たわいのない
あやとりに似た
恥ずかしさをふくんだ
そんな遊びが
ひとの生きることの
始まりかと思ったのは
月光の下
日光の下
まわたにくるまれた
山々を見上げる
田んぼはあぜ道した
つゆとも知らなかった
キャンバスに足がありますか
イーゼルはありますか
どんなものを色塗りに用意しました
みました みました よみました
ききました あっちも こっちも
さて
思い浮かぶ命の渦は何色
はたまた
天に向かって首をおるか
地に伏せみみずの声を聞くかー




35,
死に人が歩いている
それも
まっすぐに天に頭を向け
急ぐことはない
あきらかな間違いを犯すこともなく
死に人が歩く行為は
生がまやかしでもない事実であることを裏付けているのだろう
それにしても、死に人が歩くことは
幻でも幻想でもない
ましてや、微笑みさえ浮かべている
不思議といえばおかしな現世だ

36,
その言葉には
包丁の音がした
その手の動きには
まな板からの悲しみは伝わらなかった
芯の氷った大根は
なぜ輪切れにされ
捨てられたのか知らなかった
そして
深夜まで泣いていたという

37,
遮断機の上がった踏切で
電車が通り過ぎるのを待っている
何かを待っていた
照る日も
曇る日も
月日が過ぎ
季節は巡り
生きるものは老い
新しい芽が地上に
住み着く
いつの時代もそうだったように
待っていた人は
知ることになる
待っているのは一つだけだと言うこと
死だけがひしひしと足音がしのび寄せてくる


38,
すきま風は
閉ざされたドアからさえも吹いてくる
その風には
温みはなかった
その風には
情けがなかった
ただ、利便性だけを
記号としておくりこんでいる
だれもが沈黙した
黙殺は武器だが
その風は
人の弱さに溶け込むように入ってきた

39,
求めていた約束の地は
記憶よりもくすんで見えた
くすんだぶん
縮めてきた命のはんぺん
少しづつかすみかかる
命ははかない
天秤棒で担いだ
重さはバランスが段々と崩れていく


40,
たき火を見る
燃えることのつぶやきを
冬の風に訪ねる
温もりは
必ずしも
湿り気を保つことを義務づけられていないが
それなりの条件のもとで
燃える
燃え尽きて
水蒸気になって
天空に消える
人の見えない原子の世界に戻る
この太古から続いた約束ごとに
震えるほど感激する

41,
いざなるものへの
契りの場はとつてもなく
ふつりあいな格好をしていた
色はアンバランスの極み
音はかみなり
風は驚き
罵倒の連続

42,
いみじくもに
しかくばった
堅い表面と
ツルツル文字
なぞってはいけない
あなたの過去が浮かび上がり
ぞっとするようなことが
水差しに揺れるから
写し鏡が空にもある

43,(写真は明るく眩しく、ハレーションおこすようなもの。藤原と逆)
すすきをかじり
もみじを食べ
白菊を茹で
肉を干す
44、(写真のリアリストを除いて写真を作る)
かつてならぬかって気ままに生きた
団塊の世代は
あきらかに住職を喜ばせ
養老院を喜ばせ
パッケージ老人という宿命に
のたうちまわっているだけだよ
霧ふる水辺に
えりあしの寒さだけが走る
陽は昇らない
踏みつけた異物は
まぎれもない死骸だった

45,
ハンドルを握り
横切る墓地に
思わずブレーキを踏む
命がうしろからも前からも迫ってくる
私はおりの中にいる
嘘はくちへんに虚しさ
風だけが知る
本当は風には音もにおいも色もないことをー
はからば
少しばかりの接吻をしてみるがいい

46,
湖が最初に動き始めたのか
光が最初に映し出したのか
眠りから覚めた痴呆症の闇が起き出して
波間に冬鳥が揺られている
ほら、あっちの命もこっちの命も
ゆらり、ゆらりとして
とつてもなく悲しい声を発しているようだが
したたかの生の矛盾に
死への恐怖もないのだ
朝という緞帳が上がる一瞬の時は
そのような
得体の知れない
時間の孕みの中に存在するのだ


47,
ケチが命を縮めるとは知らなかった
ただ、それだけで死んだのだよ
あいつは
せめても焼かれる前に
あいつの棺桶におふくろの写真でも飾ってやろうじゃないか
たっぷり飲んだという乳房の夢をみて空に上れるように

48,
馬鹿ほど
楽しく休みをとりたいことを知った


49,
人の語りが見えるようになったころ
本人もその境地にさしかかってきた
こうして迎える明るい朝に
コートの襟をたて
散歩をする
中年男語りかける
自然の確かさに堪えきれず
男は何度もくしゃみして体を振るわせた

50,
罪を重ねれば愛
崩せば積み木
きれいごとでない
世の中など
人が地球を制覇している限り
永遠が生まれることがないことを
知っただけでもいいじゃないか
51,
日が昇り沈む
この約束事はどこでどうやって
どんな連中が決めたのだろう
そのキャンバスに
生命の誕生を歓び
生命の臨終を描き消えてしまった連中
いつまで
生き続けようとしているのだろう

52,
しじまに枯れ葉が散る
死に人が棲むにはふさわしい位置取り
あたり
枯山水の様相
恐れるものはない
なぜなら失われた時間を
永遠としているのだから

53,
眠りから覚めた意志は地上から天へなびく
煙の時間だって
拾い集める
骨くずに
憎しみも多々あるのに
どっちもこっちも許してやろうじゃないか

54,
かさかさとそばたてる
あのリズムに似たここち良さは
似たもの同士の慰め合い
骨壺と箸と
妙な白いアルカリ性の炭水化物は
なんのてらいがあろう
一つつまんでは
あちらさま
二つつまんでは
こちらさまにご挨拶
四方八方、近隣近在の方々
ほうぼうの命の先々までのつきあいを
よろしく
よろしくと
いやにほてりが残る白い骨は
正方形の桐箱にすっきりと収まり
グッドバイさ


54,
綱領、もうりょう
がんじがらめの中で生き
見え始めた時
みごとなほどに
解かれていた
捨てられたくず糸はそれでも生きる
捨てざる者に
言葉はない
草の根を喰っても生き続けろ
ということだ
ああ、ありがたき言葉に
山途の川が見える
弱さの吐露に違いない


55,
命を懸けるということは
死を思うことだ


56、
肉体の骨組みは
共通項があった
あるべくだった

その人は
聾唖者だった

その妻はも聾唖者だった
やがて生まれた子どもは
空気の振動を知り
鳥の声を聞き分け
ひとの言葉さえ覚えた

子どもはもう一つの手話という
手品師のような
言葉を学んだ




57,
酷使され
打ちのめされ
肩をたたかれ
そしてグッドバイさ
なかなかの度胸だ
屈してやろうじゃないか
草を煎じ
根をかじり
花骸をデザートに
押し花のような蛙を喰い生きてやろうじゃないか


58,
月が水を射す
痛さはあるのか
光の重みを知るのか
命の照射を感じるのか
月よ湖に訊け





59,
増えたのは
肉体の衰えと
記憶力と
生きるという執念
これだけ失えば
死んでもいいと思うのだが
毎日、朝目を覚まし
欠伸をして
トイレにかけこみ
新聞を取り
増えた部分と減った部分の計算をする


60,
謎の中に謎を探る
この恐ろしき行為に
神は目をつむったという
21世紀に科学が見聞して
問いを作り出す
創造はあきらかに
神が閉じるに違いない



61,
こんちきしょう
魂を入れてやろうじゃないか
この石仏たちめ 五百羅漢
ひがみ
囁き
陰口
罵り
罵倒して
噛みつき
嘆き
笑い
祈り
おまえは何年
その形で生きているというのだ


62,
アウトカウントを数えたら
白く
青く
どんよりした
死の淵が見えた

それは
とんでもない
青空が広がる
台風一過の朝だった



63,
目を閉じれば
虹色だけが見える
グッドバイの世界は
どんな輩たちが暮らしているのだろう

2004年12月より

64、
人よ
死ぬ前にしっかりと
生きなければならない
それが
たまたまの生の恩返しである


65、
光が
命を宿すのか
命が宿されるのか
しっかりと見つめるべきだ


66、
病名に領収書がつく
近代科学をどこまで信じるのか
誰しも自由であるべきだ